扉をあけたら vol.5 『幸せへ向かう』(伊澤純子)

受講生の伊澤純子さんは∴chimugusuiに出会ったことで、移住・結婚・出産と導かれるように自分らしく変容していきました。その道のりや心身の変化について伺います。

写真と文:七緒(@naotadachi


“私の感覚は大切なもの”

浜松駅から車で1時間半。深い山道を螺旋のように登った先で、茶畑が一面に広がりました。

鼻先をくすぐるのは、雨上がりの甘やかな土の香り。キウイ畑や果実の木が点在し、視界の端にサワガニがさっと横切ります。

5年前にここ春野町へ移住し、お茶農家の伊沢園にお嫁入りしたのが∴chimugusui受講生の伊澤純子さんです。小さな男の子を育てながら『春野ハーブ』を立ち上げ、マルシェ出店など精力的に活動しています。

「移住・結婚・出産、自分らしい人生に出会えたのは∴chimugusuiのおかげです」

∴chimugusuiとの出会いは2017年。

協会認定資格講座からはじまり、中級「Body & Mind Class」上級「Advanced Class」、単発講座「和草一日」、オンラインコミュニティ「forest syn」と長い間、学びを深めてきました。

クシャッとした笑顔がチャーミングで想像もできませんが、受講前は本来の自分とはかけ離れた生き方をしていたそう。

「人に合わせることが当たり前で、自分らしくいられなくて…。無理がたたって30歳でパニック障害を発症したとき、生き方を根本から見つめ直しました。同じ頃、知人から∴chimugusuiを教えてもらい、すぐに受講を決めたんです」

∴chimugusui labのあったカギヤビルの階段を一段ずつ登って扉をひらきます。その瞬間、湧きあがったのは、五感が躍動するような喜びでした。

「もう忘れもしない。オブジェのようなドライフラワーが天井から吊るされて、澄んだ精油の香りに包まれて。全身鳥肌が立ちっぱなしでした。細胞一つひとつが喜んでいて『やっとたどり着いたー!』って叫びたくなるほど」

「最初の講座でシングルハーブを手にとり、みんなで感想をシェアしあった時間が印象に残っています。どんな香りがする?口に含むと何を感じる?植物を通して感覚に耳をすますことで、自分の感覚は大事にしていいとはじめて思えたのです」

感覚には正解も不正解もなく、一人ひとりオリジナルで尊重されるもの。そう気づくことは、自分を信じる小さな一歩です。

「加えてハーブティーや冷えとり健康法などのセルフケアを実践したことで、薬を飲み続けても治らなかったアレルギー症状がすっかりなくなってびっくりしました」


移住・結婚・出産と人生が大きく変容

植物にふれて、心身の変化を実感しはじめた矢先、大きな変容が訪れます。

当時は名古屋のアロマショップで働いていましたが、コロナ禍で1ヶ月休業に。友人に会いに春野町を訪れた時に「地域おこし協力隊」の募集を見つけて、応募、合格。

仕事を辞めて、たった一人で移住したというから驚きます。

「満員電車にも疲れていたし、除菌グッズに殺到する人々を見て、暗い気持ちになってしまって……。その少し前に∴chimugusuiの講座で、春野で暮らす女性と仲良くなっていたんです。いつもは連絡先交換とかしないのに不思議ですよね。で、遊びに行って、応募したら受かってしまった!」



「あの頃は毎日仕事で人と接して、週末も飲み歩いたり、買い物したり。たくさんの人や情報にふれて刺激的でした。でも本当の自分を置き去りにしている気もして、物足りなくて寂しかったです」

そうして都市を満喫する日々から一転、コンビニはおろか最寄りのスーパーまで車で30分かかる山深い町へ。

「環境を変えるのは怖くて仕方なかったけど、良い方に進む予感もしていました。その頃、受講していた講座『和草一日』の生徒さんにも背中を押してもらい、人生で一番勇気を振り絞りました」

感覚を信じて進んだ純子さんに、大きなギフトが次々訪れます。ほどなくしてパートナーに出会い、結婚、出産。その相手がお茶農家・伊沢園の長男・光興さん。

伊沢園は20年も前から無農薬栽培に取り組んでいる先進的な農家。

はじめは心ない声も届いたそうですが「本物とは自然と同じ環境でつくること。人のからだに入るお茶は健やかなものにしたい」と信念を貫いた結果、集落全体にオーガニック栽培が広がっていったそう。

植物療法を学ぶ純子さんが、無農薬のお茶農家へ嫁ぐ。パズルのピースがピタッとハマるような調和。

「結婚・出産と驚くほどトントン拍子で、まるで導かれているようでした。旦那さんが春野町の未来をいつも考えていて、迷った時は『春野が良くなるかどうか』で決める…そう言い切る姿に惹かれたんです


春野の恵みで、わたしをケアするお茶

住まいも家族もすっかり変容した純子さんが、今、力を注いでいるのが『春野ハーブ』。優しすぎてつい我慢してしまう人に、そっと寄り添うお茶です。

「息子が1歳の頃、なかなか自分の時間が取れなくて焦ったときがありました。たまたま目の前にあった伊沢園のお茶と∴chimugusuiのハーブを混ぜて飲んだらおいしくて。ちょっと販売してみようかなって」

身近にある豊かなもの同士を組み合わせた『春野ハーブ』は自然と自分らしいブランドに。日本茶の香ばしさと澄んだハーブの風味を感じるお茶は、双方のあらたな魅力を引き出し、マルシェなどでも人気です。



「最近気づいたのですが、このお茶は私自身をケアするお茶なんです。今は腎臓と肝臓をケアしたくてネトルとダンディライオンをブレンド。私が満ちれば、みんなのケアにもつながる」

人の目を気にする時期があったから生み出せた、ありのままを愛するための『春野ハーブ』。ピュアな思いで作られた唯一無二のお茶は、みんなの心に響き、広がっていくことでしょう。

「長い間、∴chimugusuiを受講し、こころやからだと深く向き合い続けていたから、本当にやりたいことに気づけて、一歩踏み出せました。山暮らしの力も大きいです。人が少ないから思考優位にならず、自分の内面をより深く信じられるようになっています」

調和し、命をわたしていく

「今は夫婦で春野について話す時間が一番幸せ。ここに住む人は口を揃えて『春野が好きだからもっと良くしたい』って言うの。だから私も自然とそう思うように。春野で生み育てたい人が増えたら最高だと思う」

そう笑顔で話す姿は、遠い昔から春野町にいたかのようにしっくり馴染んでいます。実際、都市的な感覚を持つ純子さんが根を下ろしたことで、伊沢園のお茶がさまざまなマルシェで販売されるなど魅力が広がっています。

互いに必要なものを補い響き合うさまは、まるで森の生態系のよう。なんだか連綿と続いてきた町の命をつないでいくために、導かれたような気がしてなりません。そしてそのきっかけは「間違いなく∴chimugusuiでした」。

からだの声に耳を傾けると聞こえてくるこころの声。深く沈んでいた直感に気づいたら、勇気を出して舵を切る。その繰り返しで自分らしい人生へと進んでいく──。今までの『扉をあけたら』でも繰り返し語られてきたお話です。

今日も起きたら、茶畑を見渡して深呼吸。山の湧水でお茶を淹れて、家族揃っていただきます。縁側で猫は昼寝し、子どもは泥んこ遊び。プリミティブなのに、どこか美しい未来を見ているよう。

ありのままを慈しめるこの町で、純子さんが未来へ命をわたしていく。そんな光景が目に浮かびました。



プロフィール
伊澤純子

自然豊かな春野町に暮らしながら、日本茶とハーブをブレンドした『春野ハーブ』を立ち上げる。∴chimugusuiは2017年から受講。

Instagram:@haruno_herb


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